今回紹介するシェムリアップはカンボジアの1都市で、世界遺産としても有名なアンコール遺跡がある場所です。遡ること9世紀から500年ほどかけて大小様々な遺跡が、その時代の統治者によって造られました。現地へ向かう直通便はありますが、割と費用がかかります。その為トランジットで行く方が多いと思いますが、時間をかけてでも行く価値がある場所です。アンコール遺跡に興味を持っている、あるいはこれから行く予定のある人に向けて、私なりのおすすめスポットを7つご紹介したいと思います。
①ベン・メリア ប្រាសាទបឹងមាលា
創建者 :スールヤヴァルマン2世
創建年 :12世紀初頭
信仰 :ヒンドゥー教寺院形態:平地型
建築様式:アンコール・ワット様式
移動時間:アンコール・ワットから2時間程度
見学時間:1時間30分
中心地から離れているせいか、観光する人たちも少ない穴場スポットです。通常はツアーなどを利用して遺跡の場所へと向かいます。私的には訪れたアンコール遺跡の中で一番満足度が高かった場所です。
この遺跡は、宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』のモデルになったとも噂されています。プノム・クーレン丘陵の南東に位置しており、かつてはアンコールの中心部と王道で結ばれていました。遺跡の大半は森に飲み込まれていており、歩くこともままなりません。そして辺りは繁茂する樹木のために、暗く重々しい雰囲気が漂います。
もともとはアンコール・ワットを造る前の試験的な意味合いで造られました。他のアンコール遺跡は、大部分が人の手によって補修がされています。その為所々で鉄筋などがむき出しになっており、興ざめしてしまうこともしばしばです。ところが、「ベン・メリア」に関しては発見されて以来、全く人の手が入っていない珍しい遺跡です。
数年前までは遺跡内に入って散策することができたようですが、1年前から規制がかかり、決められたコースを歩く以外は禁止されてしまったようです。それでも十分に冒険気分を味うことができます。
私が行ったときは乾期の時期だったのですが、おすすめは雨期です。雨が降った後、苔が深い緑色になり、また雨露濡れて神秘的に輝く遺跡を歩くのは、きっと更なる感動を呼ぶことでしょう。
②アンコール・ワット អង្គរវត្ត
【遺跡の概要】
創建者 :スーヤヴァルマン2世
創建年 :12世紀前半
信仰 :ヒンドゥー教ヴィシュヌ派
寺院形態:ピラミッド型
建築様式:アンコール・ワット様式
こちらは説明する必要がないほど有名な遺跡ですね。緻密に組み立てられたこの遺跡は、訪れる人々の心を揺さぶります。
建築に約35年、総勢6万人が造営作業に関わった遺跡で、現存するアンコール遺跡群の中では最大級の規模を誇る、アンコールを代表する寺院遺跡です。ヒンドゥー教三大神の中のヴィシュヌ神に捧げられた寺院であると同時に、王の死後はスーヤヴァルマン2世を埋葬した墳墓でもありました。
アンコールワットの創建者であるスーヤヴァルマン2世は、王権を神格化するために独自の宇宙観をここで表現しています。そして中央祠堂は、ヴィシュヌ神が降臨し、王と神が一体化する聖なる場所として造られました。新たに王位に就いたことを全国民にアピールする厳粛な儀式が、ここで執り行われたのです。
第3回廊から下界を見下ろした時の感動は、言葉にできないものがあります。かつての王様も、高い場所から地上を眺め、過行く時に思いを馳せていたことでしょう。
③バイヨン កម្ពុជា
【遺跡の概要】
創建者 :ジャヤヴァルマン7世
創建年 :12世紀末〜13世紀末
信仰 :仏教 → ヒンドゥー教
寺院形態:ピラミッド型
建築様式:バイヨン様式
見学時間:1時間30分
この遺跡に到着すると、誰もが52基の塔の上に掘られた「尊顔」の数に圧倒されることでしょう。何を象ったものなのかは未だに意見が分かれるところであり、仏教の観音菩薩説、ヒンドゥー教のシヴァ神説、神の化身である王自身の顔である説など諸説あって議論が交わされています。
アンコール・トムの中心にあるバイヨンは、メール山(須弥山)を象徴化しています。そして東西南北に延びる幹線道路は、メール山から世界に向かう道を象徴し、城壁はヒマラヤの霊峰、城壁を囲む環濠は大海を表しているそうです。
内部はまるで迷路のようになっており、一人で回る際にはいささか骨が折れます。ですが5〜6回の増改築を行ったこの遺跡は緻密な設計が行われており、上から見るとさながら曼荼羅のようです。
アンコール遺跡群は通常神話などをモチーフにした宗教色が強いものがほとんどなのですが、この遺跡の場合第一回廊を歩くと当時の人々の生活の姿を垣間見ることができます。またヒンドゥー教のシヴァ神、ヴィシュヌ神をはじめとして仏教の神や地方神を含めた様々な神々の彫刻や名前が彫られた「八百万の神の館」としても有名です。
午前中は順光となるため大勢のツアー客で賑わうため避けたほうが無難です。
④タ・プローム តាព្រហ្ម
【遺跡の概要】
創建者 :ジャヤヴァルマン7世
創建年 :1186年
信仰 :大乗仏教 → ヒンドゥー教
寺院形態:平地型
建築様式:バイヨン様式
見学時間:1時間
映画「トゥーム・レイダー」の舞台にもなった場所です。
もともと大乗仏教信仰で知られるジャヤヴァルマン七世が母親の冥福を祈り築いた霊廟寺院で、名前は「梵天の古老」を意味します。大乗仏教の寺院として建てられたものの、王の死後に別の王の手によってヒンドゥー教の寺院に造り替えられています。そのため仏像が削り取られ、リンガが彫られている箇所が見受けられます。
ラテライトの周壁に囲まれた広大な敷地内に、12,000人以上が暮らしたと言われ、一つの都市のような遺跡となっています。ここで発見された碑文によれば、寺院を維持するために近隣の村に住む8万人を超える村人が奉仕したそうです。
巨大な榕樹に押しつぶされながらもかろうじて寺院の体裁を保つ姿は、自然に対する文明の底力をうかがわせるようにも見えます。
⑤バンテアイ・スレイ
【遺跡の概要】
創建者 :ラージェンドラヴァルマン2世
ジャヤヴァルマン5世
創建年 :967年
信仰 :ヒンドゥー教
寺院形態:平地型
建築様式:バンテアイ・スレイ様式
見学時間:1時間
他の遺跡と比べると規模が小さく、30分もあれば一通り回れます。以前は地雷が仕掛けられている可能性もあり容易には近づけない場所でしたが、事態が沈静化されインフラが整備されるようになってからは観光客の数が倍増しました。
「女の砦」を意味するこの遺跡は、通常の灰色砂岩よりも硬質な赤色砂岩で出来ているため、他のアンコール遺跡と比べて格段に立体的かつ緻密な彫刻が施されています。そして1000年という長い月日が流れても、依然として当時の形をしっかりと残しています。
この遺跡は当時のアンコール王朝摂政役のバラモン(高僧)であるヤジュニャヴァハーラによって建立されたと言われています。なんでも当時はチャンパ軍との戦いの際、女性のみで構成された部隊があったそうです。そしてチャンパ軍に勝利した時に記念として建てられました。
中央祠堂にある「東洋のモナリザ」は、のちのフランス文化大臣となる作家アンドレ・マルローが、その美しさゆえに国外に持ち出そうとしてから一気に有名になりました。ちなみに、本人はその当時の体験を、小説「王道」として出版したようです。
⑥プノン・バケン
【遺跡の概要】
創建者 :ヤショーヴァルマン1世
創建年 :9世紀末
信仰 :ヒンドゥー教シヴァ派
寺院形態:丘上型
建築様式:バケン様式
見学時間:1時間30分
30分ほどなだらか道を登って、頂上を目指すこととなります。
ヤショーヴァルマン1世が築いた第一次ヤショダラプラ都城の中心寺院として建設されました。自然の丘に対して大規模な土木工事を行い、ふもとの周囲には堀や周壁を造りました。そして山頂部では大規模な造成を行って寺院を作り、また山上に至る参道を造りました。このエリアでは現在もアンコール・ワットより高い建築物の建設が禁止されているので、ここからの眺めは遺跡が生きたいた時代と変わらぬ景色となっています。
きれいな夕日が見える場所として有名な場所で、300人の人数制限が設けられています。その時間帯には多くの人たちで賑わい、鑑賞スポットの取り合いになるので、早めに登頂することをお勧めします。また、残念ながら三脚は使えないようですので注意しましょう。
⑦ニャック・ボアン
【遺跡の概要】
創建者 :ジャヤヴァルマン七世
創建年 :12世紀末
信仰 :大乗仏教
寺院形態:平地型
建築様式:バイヨン様式
見学時間:30分
広大な池の中にポツンと建っている、こじんまりとした寺院です。
傷を治すヒマラヤの神泉「アナヴァタプタ」を模した治療池と言われています。かつては多くの人がこの貯水池を訪れ、体の傷や病気を癒しに訪れたことでしょう。
また中央池には、インド神話を題材としたヴァラーハ(神馬)のほぼ等身大の彫刻があります。中央の大池から四方にある小池に樋口から水を流し込む手法は、治水に長けたクメール流の農耕文化を象徴したもので、さらにその周囲を大池が取り囲んでいます。
池の下には遺跡の一部が沈んでおり、冒険ゴコロをくすぐります。またお勧めは雨季で、より一層水が溜まり幻想的な雰囲気になります。
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